公開メンタリングVol.1「起業家が押さえておくべき広報戦略の構築と実行」イベントレポート

「公開メンタリング」は、スキルシェアプラットフォームを創業した南氏が2022年2月に立ち上げたVCであるココナラスキルパートナーズ(以下、CSP)が主催するイベントです。
「公開メンタリング」は今回が初の開催で、スタートアップをメンティー、CSPに参画するスキルパートナーが、CSPで普段実施しているメンタリングの様子を一般に公開します。機密性の高い情報に触れるような内容まではいかないまでも、視聴者にとっては、メンタリングの流れや相談してどのような回答を得られるのか、いわばCSPメンタリングの擬似体験が可能です。
Vol.1のテーマは「広報」です。南さんによると、投資先13社から寄せられる相談事項で最も多いのは広報に関することなんだとか。「経営者が広報の専門家ではないにせよ、広報の基礎知識もない場合が多い。広報の全体感、ポイントが分からないことで苦労している姿も見ている」(南さん)と冒頭で今回のテーマ設定の背景について話しました。
メンティーとして登壇するのは、2021年創業、神戸に拠点を置き、実店舗の無人運営/無人化を支援する株式会社fixU 代表取締役 山岡さんです。
そしてメンターとして登壇するのは、株式会社パレスサイドコンサルティング 代表取締役CEO 斉木さんです。
 
メンティープロフィール
山岡 源 Yamaoka Gen
学生時代から株式会社美学生図鑑にてデータアナリストとしてwebサイトの改 善や新規コンテンツを立ち上げ。その後、コワーキングスペースWAY OUTの 運営責任者としてオンライン・オフライン集客、無人化に従事。大学卒業後、 同WAY OUTの運営会社であるone knot trades株式会社入社。
fixUの前身となる無人化支援サービスを新規事業として立ち上げ、2021年2 月に同社からスピンアウトし、株式会社fixUを設立。現在に至る。
 
メンタープロフィール
斉木 愛子Saiki Aiko
2008年大学卒業後、大和証券SMBCにて債券セールス、プライベートバンカーとして勤務。2014年よりUBS銀行東京支店、2016年からCredit Suisse AGシンガポール支店にプライベートバンカーとして勤務、2018年よりbitFlyerならびに日本ブロックチェーン協会にて広報・渉外業務に従事。2019年に独立して個人事業主として開業、ベンチャー企業を中心に広報・渉外支援に携わる。2020年にPRASにCFOとして参画し同年10月より取締役就任(現職)。2021年10月にパレスサイドコンサルティング創業(現職)。2022年2月にファンドクリエーション社外取締役に就任(現職)。

広報活動の第一歩はメディア向けの“一瞬で分かる”資料作りから

公開メンタリングではまず、山岡さんからの事業紹介が行われました。これは擬似的にメディア向けに会社概要、事業概要を説明するようなもので、普段のメンタリングでも行われています。今回は視聴者の皆さんに、普段と同じような雰囲気を感じてもらうために、メンターである斉木さんは事前に何を使って何を説明するのか、他方、山岡さんは何をヒアリングされるのか知らないまま、臨んでいます。
山岡さんは普段会社紹介で使われている14ページのスライドを使い、会社概要、サービス概要、サービスモデル、サービスデモ、顧客のメリットを説明しました。時間にすると10分もかからないほどの長さでした。斉木さんは資料のコンパクトさ、そして一眼で会社やサービスについて記者が理解できる分かりやすさがメディア向け資料として適しているとコメントしました。
<fixU紹介資料、2ページ目に挿入されたスライド。一目でやっていることが分かります>
メディア向け資料は一般に「ファクトブック」と呼ばれます。新規メディアへ送付して参考資料とされたり、取材時に渡して紹介を行ったり、メディアとコミュニケーションをとる際に、自社を理解してもらうための重要なツールです。分量は10〜20ページ以内で収めるのを目安とすればいいとのこと。もしまだファイナンス用、普段登壇しているイベント用資料しか作ったことがないスタートアップの皆さんは、以下の項目、企業のファクトブックを参考に、ぜひ作成にチャレンジしてみてください。
<ファクトブックに盛り込む項目例>
  1. 会社概要:会社名、代表、設立、事業内容、本社所在地、拠点、資本金、子会社、従業員数、主要株主、創業の背景、アピールできる財務サマリー(例:売上は前年同月比XX%増で急成長中)、アピールできる従業員データ(例:外国人比率や女性比率が高い場合)、今後の展望、向き合う社会課題(課題の根拠となる定量的・公的データ)
  1. 代表紹介 or 役員紹介:写真付で略歴や強みを記載
  1. 事業紹介:事業内容、取引先(toB/toC, メインターゲット)、提携先、シェア、収益モデル(マネタイズはどうしているのか)
  1. サービス・プロダクト詳細
  1. 差別化ポイント:特長、オリジナリティ
  1. 主要顧客データ:toCではユーザー数・ユーザー属性、toBでは取引先の会社ロゴなど
  1. 業界内でのポジショニング:業界カオスマップのなどあれば
  1. 課題:業界規模、業界が向き合う課題、取り組んでいる壁
  1. メディア掲載(一部抜粋)
  1. 取材切り口のご提案:事例を箇条書きで列挙
  1. 本資料のお問い合わせ先:広報窓口のメアド、電話番号(可能であれば携帯番号)、「本資料へのご質問や取材のご相談はお気軽に以下までご連絡ください。」「※本資料は報道関係者の皆様へのお手元資料となります。資料の内容を転載・記事にご利用される際は広報までご一報お願いいたします」といった注釈
<ファクトブックに関する関連URL>
ファクトブックとは
メルカリのファクトブック:

広報活動を通して実現したいことは?ーPR活動をする前に、現状の整理を

山岡さんからの会社説明後は、斉木さんから現在の広報体制や運用、課題感、広報活動の目的と訴求先などを順々にヒアリングしていきます。
山岡さんは広報活動に対して、作業的になってしまっていると課題感を話します。「スタートアップはPR Timesでフリープランがあるので、使っています。導入事例やサービスアップデートは適宜出していますが、差し迫って出している状態で、戦略的には出せていません。」(山岡さん)
参考:fixUのプレスリリース一覧
企業が発信するプレスリリースを、複数のメディアに一斉送信するサービスを提供しているPR Timesは、スタートアップ支援の一環として創業2年以内の企業に対し、次のプランを提供しています。リソースが限られ、認知度もこれから作り上げるスタートアップにとっては活用していきたいサービスの一つです。
広報活動の目的には、サービスの認知の他、採用広報の意味合いでも認知を獲得していきたいと山岡さんは言います。これを受けて斉木さんは、採用広報の目線でも整理しておきたい情報の項目を列挙しました。
<採用広報で事前に整理しておきたい情報の例>
  • 候補者へ提供できる魅力(例:優秀なエンジニアと働ける環境等)
  • 採用計画とスケジュール(例:いつまでに何人欲しいのか等)
  • 採用競合(例:よくカジュアル面談で出てくる社名)
  • ペルソナ(例:候補者の属性等)
  • 入社したロールモデル人材はなぜ入社して辞めないのか(入社後の魅力はどこか)
  • 注力する採用施策(例:ダイレクト・リファラル・エージェント等)
  • 採用ファネルのボトルネック(例:最初の母集団形成に一番課題がある等)
  • 成功した採用施策(例:リファラル等、エージェントの場合は社名も)
  • 採用広報チャネル(例:note・Wantedlyフィード・テックブログ等)
<採用広報で上記情報が資料等にうまくまとめられている企業事例>
前述したメディア向け資料で整理しておく項目と、視点が異なることが見てとれます。
こうした情報整理は、おおむね3ヶ月から半年程度を目安に、更新していくといいと斉木さんは言います。「スタートアップはフェーズの変化がとても早いです。最初から中長期的な視点で広報戦略を企画検討できればいいのですが、おおよそ3ヶ月から半年程度の視点で上記項目を整理、更新していければいいでしょう。また、採用は欲しい候補者もすぐに変わる可能性がありますよね。そのため候補者全員に共通するコア情報をまとめておくといいと思います。」(斉木さん)
実際、ココナラ創業当時の広報活動を振り返り、南さんは、ココナラのサービス特性もあってか、より早めのスパンでメディア向け資料をアップデートしていたんだそう。「創業当時からユーザーさんにメディア露出がOKか確認して、リストを作っていました。また、月に1回ほど、様々なトレンドをまとめて記者にメールを送っていましたね」(南さん)

今すぐできる広報戦略のつくり方

時間ギリギリまで斉木さんのヒアリングとアドバイスが続き、濃密な1時間のメンタリングでしたが、下記に斉木さんからのヒアリング項目をまとめました。広報活動を何から手をつけていいか分からないという方も、ぜひこちらの項目から整理してみるのはいかがでしょうか。
<広報戦略を固めるため言語化する項目>
・現状の広報体制
・広報における現状の課題
・広報における目的とゴール
・訴求先とメインターゲット
・現状の認知獲得度合い(肌感覚で)
・現在の従業員数と今後の人員計画
・広報チャネル(PR TimesやSNSなど)
・対外的に出せる事業数値や近々突破しそうな大台の数字
・他社と比較したときの特徴、オリジナリティ
・自社が解決している社会課題
・業界の課題
・メディアを通して伝えたいキーメッセージ、どこキーワードの第一想起をとりにいきたいか
・メディアリストの数と懇意メディア
・直近のPRネタ
・時事ネタ(例:コロナで店舗縮小傾向が増加、XX業界は人材不足深刻化で無人化増など)
・業界のトレンド、まだ記者が知らなさそうな業界の話題や法規制変更
スタートアップの広報支援、メンタリング活動でよく聞かれるのが、「メディアに取り上げてもらうためにはどうしたらいいですか?」とか「TwitterをどうPRに活用したらいいですか?」という「何をすればいいか」という“戦術”の相談が中心だそう。「戦術はスタートアップには一定の勝ちパターンがあるので誰がやっても一緒。正直インターンがやっても出来ることなので、スタートアップ経営者はまず戦略部分をかためることが大事です」と斉木さん。また、抜け落ちがちなのが広報活動において社会課題や業界課題に関わる視点。小さな目の前の課題を語るだけでなく、より大きな課題への取り組みがメディアからの関心度を高めるポイントだと南さんも伝えます。「なぜこのビジネスが成り立つのか、社会環境から伝えるのがスムーズです。例えばfixUの場合は人口不足の背景を語るのもありえますし、個の時代を支える環境を”無人化テック“と呼んでもいいかもしれません(笑) 社会のムーブメントまで言えると広報のベースができてくるのではないでしょうか」(南さん)
こうした大きな絵を描くことは、広報担当者を採用したからできるわけではなく、経営者が広報の視点を持って深めていくことだと言います。目まぐるしく事業フェーズが変わるのがスタートアップではありますが、その時々のフェーズごとに上記の項目を整理していくことが広報戦略を作り上げる基礎となることが分かりました。

最後に

普段のメンタリングでは、最後に具体的な広報ネタをヒアリングしてメディア名を挙げ、可能であればメディアアプローチ(メディアへ情報提供を行うこと、掲載や取材調整も行う)まで実施します。戦略立案はもちろん、広報活動をしている途中でのお悩み相談も随時受け付けています。
CSPでは広報の他、UXやデザイン、営業、マーケティングなど様々な分野のプロフェッショナルであるスキルパートナーズが、各社の課題に応じたメンタリングを提供しています。もう一歩、成長のために踏み出したいスタートアップの皆さんからのお問い合わせ、ご相談をお待ちしています。
参考:CSP概要、スキルパートーナーズ一覧ならびにプロフィールはこちらをご覧ください。
 
<CSP次回イベントのお知らせ>
8月23日(火)19:30から、「いつか自分もCTOに?創業フェーズのスタートアップで挑戦したいエンジニアのためのピッチ大会」を開催します!
注目のスタートアップとエンジニアのみなさんが出会えるいわゆる採用イベントですが、CSPは一味違います。スキルパートナーとしてCSPに参画する柄沢さん(スターフェスティバルCTO)、渡辺さん(サイバーセキュリティクラウド代表取締役CTO)が、エンジニアとしてスタートアップにジョインする際、気になるポイントを深ぼっていくパネルセッションコンテンツも!
参加費は無料です。ふるってご参加ください!
お申し込みURL:https://csprecruit1.peatix.com/